6歳くらいの男の子が何かを壁に向かって投げていました。
お母さんが来て、言いました。
「あら、A太、だめよ、うさぎさん、かわいそうでしょう?」
A太に投げられたうさぎのぬいぐるみは壁の前でくたっと横たわっていました。
A太は
「大丈夫だよ、優しく投げてるから。
それにうさぎは柔らかいから痛くないよ」
とお母さんに言いました。
お母さんは、それならいいかと思い、
「ご飯もうすぐできるわよ」
と言いました。
A太はその後もうさぎを壁に向かって投げ続けていました。
毎日投げ続けていたある日、うさぎはいきなり、パンッと音を立てて、耳と顔と胴体と両手と両足としっぽが分離しました。
綿が少し出ていました。
投げ続けた衝撃で壊れてしまったようでした。
A太は無表情で壊れたうさぎのパーツを拾いました。
そして、お母さんに
「ママ、うさぎ壊れたー、修理して」
と頼みました。
お母さんは、壊れたうさぎを縫ってくっつけてくれました。
A太は直ったうさぎを再び投げて遊びました。壊れないように優しく投げました。
しばらくするとうさぎはまたパンッと音を立てて耳と顔と胴体と両手と両足としっぽが分離しました。
前よりも短い期間で壊れました。
A太はまたお母さんに直してもらいました。
そして、またうさぎを優しく投げて遊びました。
うさぎを3回投げたとき、今度は以前より小さなパンッという音で、耳と顔と胴体と両手と両足としっぽが分離しました。
A太はまた壊れたうさぎを今度は修理してもらうことはせず、おもちゃ箱に放り込みました。
A太はお母さんに駆け寄り、
「ママー、うさぎ壊れたー
すぐ壊れてつまんないから新しいおもちゃ買ってー」と言いました。
お母さんは呆れながら、
「また壊したの、もう大事にしなきゃだめじゃない」と言いましたが次の休みに新しいおもちゃを買いに行くと約束してくれました。
A太は喜んでうさぎ以外のおもちゃで遊び始めました。
うさぎはだんだんとおもちゃ箱の奥の方に沈んでいきました。
耳と顔と胴体と両手と両足としっぽはおもちゃ箱の中で他のおもちゃに潰され、月日が経つごとに埃で薄汚れていきました。
でもそこには確かにバラバラに壊れたうさぎがいたのです。
7月の出勤予定
7/21(日)10:00〜20:00