怪談話4「向こう側」
実際に会った話であり、読むにあたり一切の責任を負いかねます。
これは美大に通って行った時に起きた不可解な現象である。
夏休みの課題として「自身が夏休み中に実際に足を運んで写真で撮ったものを拡大模写する」と言う名目で出された物で
優秀な先輩の作品を数々見せてもらい
ビル街は人が写り込むために非常に困難な作業になり自然物や人気のない建物が好ましいと教授はボソボソと繰り返し言っていた。
夏休み私は実家に帰り、市内に流れる橋から見える川の写真を課題にした。
水面には苦戦したものの二点透視とあまり難しい構図ではなく、グリッドを使い早めに終わらせることができた。
そんな時、同じゼミをとっていた友人から
課題の進捗を問う連絡があった。
「簡単な風景を選んだからもうおわったよ」
と話すと
「羨ましい…なんで?」
と何度か返ってくる
何か様子がおかしいと思い
「なんかあった?」
と尋ねると
「…いや、私が撮るのが下手だったのか、カメラが壊れてたのかわかんないんだけど、描いてたら何か変なんだよね」
と話しにくいような声色で言葉を詰まらせた。
何を撮ったか聞くと、真面目な彼女は教授が言ったように人が写り込まない様に廃虚を選んだと話す。
とりあえず課題に選んだ写真を送ってもらい、じっくり見るが拡大しても何にも変わった点は見当たらない。
この写真の何が変なのかを聞いても全く解らなかった。
夏休みが終わり、課題提出となった日
彼女の後ろ姿が見えたので私は駆け寄って声をかけた。
「久しぶり!ねえ、課題どうなった?大丈夫だった?」
私は振り返る彼女の姿に声を押し殺すほどに驚いた。
顔だけではなく長袖のカーディガンから見える指先までが薄汚れていた。
鉛筆を握り続けた手の側面が鈍色で汚れるように。
「いや、ちょっと待って。大丈夫なの?見せてよ絵。心配なんだけど。」
無理矢理彼女を引き留め構内に連れて行くほどに
不安だった。
自分が相談された時に何もわからなかったからと彼女を蔑ろにした罪悪感もあったが
それよりも目に見えない何かが彼女を蝕んでいるのではないかと。
「見て、見て、すごく時間が掛かったんだよね…でも、凄い上手く模写できたと思うんだ」
と彼女が筒から出した絵は、私が見せて貰った風景画像とはまるで違う物だった。
「え?写真変えたの?というかこれ何を描いたの?」
イーゼルサイズの紙には無数の歪んだ線がぎっちりと詰まっていて
近くで見たら絵とは思えない
あの廃虚ともかけ離れていた。
「ずっと見てたらわかったんだよね、何が変なのか。初めは全然気づけなかったなあ」
と彼女は笑った。
印刷した写真と作品と題名を提出し
後日ゼミの皆んなで発表会が行われた。
「向こう側」と題した彼女の作品は遠くから見ると人影に見える。
と、私たちが卒業した後もずっと語り継がれた。
彼女には何が見えていたのだろうか。
現地で何があったのだろうか。
今だにわからないでいる。
「向こう側」
ー終ー