夏の足音が聞こえてくる度、
それはやってくる。
静かに私の横に佇み、やあ。と挨拶する。
絶望は気配もなく現れる。
夏の夕暮れが近くなると、裏盆で灯る
迎え火が、青白い燐光を放つのを思い出す。
玄関先で燃える仄暗い光は、狐火のように
チロチロと一筋の細い煙を吐き出し、
それは映画の「蛍の墓」を連想させ、
幼い頃は迎え火を見る度、泣きたくなった。
生暖かい風が吹き、空が赤く焼けて
鈴虫や蝉が鳴く。
あの子が衝動的に飛び降りたのも6月頃だ
お葬式屋の一人息子だった。
人付き合いが苦手で繊細すぎた男の子は、
好きな女の子に受け入れてもらえない事に
絶望し、他人の視線が怖くなり、
サングラスをかけて付き纏った。
自分を分かってもらいたくて
脅迫する様に自分の不幸を吐露し、
脅すことで自分が傷つかないように、
小さなナイフを持ち歩いていた。
学校でも問題視された初夏の夕暮れ、
男の子は衝動的に家の窓から飛び降り、
自らの真っ赤な心臓まで好きな女の子に
捧げてしまった。
今でもお焼香と読経の混じった
空虚な室内と、青白い蛍光灯を思い出す。
ひたひたと冷えた記憶の味を確かめた後、
絶望は満足そうにため息をつくと、
気づくと部屋から消えていた。
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