古い土壁で出来た、二階建ての木造。
玄関の横から真っ直ぐに伸びた階段が
冷んやりしていて好きだった。
頬をつけ、小さな身体を横にして、
いつも階段に寝そべっていた。
うっかり寝入ると決まって階段から落ちた。
落ちれば痛いし、親にも叱られたが
木造階段の冷たさが気持ち良くて
親の目を盗んでは寝そべっていた。
以前は様々な人に貸した
アパートだったという広い家だ。
玄関は広い石畳で上り框があり、
それだけで8畳の広さがある。
畳敷の部屋は一階に5部屋、台所、トイレ、
2階は7部屋、トイレ、ベランダがあった。
襖で仕切られ、中央に廊下が伸びる。
台所の裏口から坪庭に出られ、よくそこから
家を抜け出して遊びに行っていた。
階段は不思議と居心地良く、
寝そべると決まって眠くなる。
あれは気のせいだったかもしれない。
うとうと微睡んでいたら、
ふいに鮮明な声で
あぶないよ
と聞こえた。
親は買い物に出かけ、暑い日差しとは真逆の
しんとした暗い家の中で、ふいに聞こえた
声があまりにもクッキリ鮮明だった。
階段からは落ちなかったものの
全身の毛が逆立つのが自分でも分かった。
ふいに怖くなり、泣きそうになった時、
能天気な母の声が聞こえた。
ただいまーと言いながら
ガサゴソ袋の音を立てている。
一目散に母の元に行き、お土産を見てる内、
なんで怖かったを忘れてしまった。
だからその日の暮れに、
銭湯で見知らぬおばあちゃんに
足首についた痣を
言われるまで気づかなかった。
ぐっと握られたような、
くっきりした青あざを見て
それ以来、階段で寝そべったり
しなくなった。
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