車のフロントガラスに土砂降りの雨が叩きつけられていた。
ワイパー速度をハイスピードにしても、前が見えないほどの豪雨だった。
私は上司の車の助手席に座り、とても整った顔立ちをしている上司の横顔を、チラチラ盗み見しながら身体を強張らせていた。
どうしてこんな状況になったのか。
それは約40分前に遡る。
証券会社の一般職として働いている私は、注文執行業務が長引き残業していた。
気が付いたら外は暴風雨となっていて、困っていた私に「送るよ」と声を掛けてくれたのは室長だった。
寡黙で無愛想な室長とは仕事の用事以外で話したことがなかったので、その意外な申し出に驚いた。
二人きりの車内。
会話は持つだろうか。
そんなことが頭をよぎったけれど、私は気が付いたら「お願いします」と返事をしていた。
……室長のことが、好きだったからだ。