「…君にしては可愛いね」
恐る恐る上目遣いで様子を覗えば、悪戯めいた視線のなかに、剣呑な影がチラリと見え隠れ。
これから、何か良からぬことが起こるぞ。
直感的にそう感じて、だけどそのどこか危険な香りに、本能が惹きつけられる。
獲物をどう甚振ってやろうかと思案する捕食者の目なのに。
「俺は言いたいことがあるなら口で言いなさいと、常々指導してきたつもりだったんだけど」
私を射竦める切れ長の瞳は、ナイフみたいにキリリと鋭い。触れたら、容赦なく切り捨てられそう。
おまけに声だって、抑揚がなく平坦で、なのにカラダの芯にずぅんと響く低音ヴォイス。
さらに言わせてもらえば、ワックスでピシッと決められた髪型も、シワひとつないキチッとしたスーツの着こなしも、正直見る者に威圧感や緊張感とかしか与えない。
そんな彼が怖くていやだという子もいるけれど、むしろ私は逆だ。そんなことはない。あるはずがない。
涼しげを通り越して冷たい眦とか、最高じゃないか。
「どうやら、まだまだ指導が足りないみたいだね」
ハア、と溜め息混じりに告げられる。がっかりされた、と落ち込む一方で、私は高鳴る胸の鼓動を抑えられない。
傷つけられるものなら傷つけてほしい。
いっそ抉ってもらったって構わない。
支配されたい。支配して欲しい、私を。
「お望み通り、構ってあげようか」
――黒曜石のように冷たく熱い、強烈な、切れ長の瞳で。