最後にメールをチェックし、PCをシャットダウンさせた。
結局、事務フロアを出るのはあたしが最後になった。
明日は早く帰れるかなぁ。
そんなことを考えながら、ホールでエレベーターが来るのを待つ。
ボーッと立っていると、後ろからスッと手が伸びてきた。
「ボタン押さないとこないの知ってる?」
「…あ」
不破くんは小さい子におしえるような言い方。
どうやら、あたしはボタンを押さずにボーッとエレベーターを待っていたらしい。
そんなことにまったく気づいてなかった。
後から来た不破くんがエレベーターに先に乗り込む。
あたしはちょっと恥ずかしくて、俯きながらエレベーターに乗った。
不破くんが奥に行ったため、あたしはボタンの前に立つ。
「高橋、かわいいなぁ」
不破くんはあたしのことをからかうように言う。
何事も無かったようにスルーしてほしいのに、いじるから顔が熱い。
「もう、やめてよ」
くやしい。
いい切り返しが浮かばない。
お互い、会社の持っているマンションに住んでいるため、最後までいっしょ。
もう、さっきの話題でいじられないように、あたしはイヤホンを取り出した。
ポケットに入れているスマホに差し込み、ミュージックアプリを起動させる。
イヤホンを耳につける瞬間、名前を呼ばれた気がした。