夜の良質な睡眠は、私たちが健康のためにできる最も大事なことのひとつだ。しかし、睡眠不足が生活の質や長寿に対する大きな脅威となっていることが、研究で明らかになっている。睡眠不足は心臓疾患、認識機能障害、高齢者の認知症リスクの増加と関連しているという証拠が発見されたことで、睡眠は慢性疾患の苦痛を軽減する鍵になる可能性がある。
1. 睡眠パターンの変化
全米高齢者問題協議会が発行した新しい概況報告書によると、私たちは加齢によって睡眠周期と概日リズム(体内時計によって刻まれる約24時間周期の精神的・身体的状態の規則的な変化)が変動することが予想されるという。脳やホルモンの変化など、その要因はいくつかある。私たちの身体は加齢にともない成長ホルモンやメラトニン(脳の松果体から分泌されるホルモン)の分泌が減少し、それが睡眠の分断につながることがある。
また、加齢は脳の睡眠・覚醒サイクルにも影響があり、睡眠に入る時間帯を狭めてしまう。そのため、高齢者は眠りにつくのが遅くなり、朝はより早く目が覚めるようになることがある。加齢によって概日リズムが変化するからだ。高齢者の多くは、ノンレム睡眠のステージ3(最も睡眠が深い段階)とレム睡眠の時間が短くなるのを経験するため、布団に入ってから眠りに落ちるまでより長く時間がかかるようになったと感じるのだ。
睡眠パターンが変化しても、概日リズムを正しい状態に戻すように努力することはできる。夜、7〜9時間の健康的な睡眠を取ることは、あらゆる年齢の成人にとって重要だ。ゆえに適切で継続的な睡眠衛生(生活習慣や環境などの眠りに関する問題を解消し、健康的な睡眠がとれるように条件を整えること)を実践することが、睡眠の質と連続性を改善するための第一歩となる。また、眠りに関する問題の根本原因を精査し、それらを解消するための解決策を定めることも必要になるだろう。
2. 生活習慣
生活は睡眠の質に著しい影響を及ぼす。たとえばストレス、精神衛生に関する問題、運動、特定の食品、カフェインやアルコールの摂取といった生活習慣の要素が、良質な夜の睡眠に入るための準備に影響を与える可能性があることが、複数の研究で示されている。また、加齢によって多くなり睡眠の質を低下させてしまう要素には次のようなものがある
・慢性的・肉体的な痛み
・心配、不安、憂鬱
・睡眠時無呼吸症候群や夜間呼吸障害
・夜間頻尿(夜間にトイレへ行かなければならない回数が増える)
・日光を浴びる時間の減少
・運動量の減少
これらの要素の多くはコントロールできる。夜、適切な食事を摂る、睡眠の計画を立てる、就寝前に水分の摂取を控えるといったことを心がけ、睡眠障害の可能性があるなら睡眠検査などの専門的な処置を受けてみるのもいいだろう。さまざまな要因に一度に、あるいは一つずつ対処していくことも、よく眠るために役立つことがある。例えば、就寝前に紅茶を飲むことはリラックスする効果があるが、紅茶には自然の利尿作用があるため、夜間頻尿の要因となることもある。睡眠障害を防ぐためには、寝床に入る1〜2時間前に紅茶などの飲み物を摂取するようにしたほうがよいだろう。
3. 薬の影響
調査によれば、高齢者の約半数がなかなか眠れなかったり、夜中に目が覚めてしまうことに悩んでいるという。これには、上述のような生活習慣や生物学的な要因に加えて、薬やそれらの相互作用が影響していることもある。
例えば、全米高齢者問題協議会の報告によると利尿剤、プロザックやセレクサなどの抗うつ剤、サダフェッド(プソイドエフェドリン)のような鼻づまり薬などを服用すると、眠れなくなることがあるという。ゆえに、このような薬を特に夜間に服用すると、問題を引き起こす場合があるので、医療提供者とよく話し合い、指示に従うことが必要だ。