十返舎 一九（じっぺんしゃ いっく）という人物の名前を聞いたことがありますか？
十返舎一九は、元々は武士でしたが、武家奉公をやめた後、みんなもよく知っている街でみかける「TSUTAYA」というお店の名前の由来にもなっている出版業者・蔦屋重三郎の食客（しょっかく。もめ事などがおこったときに主人を助ける人）となって仕事を手伝ううちに、作家の道に入っていきます。
1802年に出版した「東海道中膝栗毛は、主人公である、やじさんと、きたさんの二人がお伊勢参りを思い立って、出かける旅の様子を今でいうところのギャグ満載で描き出した作品で、大ヒットしシリーズ化されていきます。
その後、当時、人気の高い絵師の絵をメインにした旅行雑誌にも近い「方言修行 金草鞋（むだしゅぎょう かねのわらじ）」を並行して出版し1821年に出した四国お遍路巻が好評であったことから、翌年に『御府内八十八ヶ所』を紹介する「東都大師巡八十八箇所を出版し、またまた大流行します。
これは、『御府内八十八ヶ所』が開かれて７０年あまりたった頃のことです。
江戸に暮らす人々が、この本を片手に『御府内八十八ヶ所』を巡ったのだろうと想像すると、なんだか現代とそれほど変わらない様子が目にうかんできませんか？
こうした本が広く読まれるようになった背景には、寺小屋の普及が大いに関係しています。文字の読み書きは、特定の階級にあるものだけができるものでしたが、寺小屋で学んだ一般の人々が、文字の読み書きができるようになると町には貸本屋までできるようになっていきました。