~七草粥にうたわれる「唐土の鳥」とは?~
正月七日の七草粥といえば、お節料理などのごちそうの食べ過ぎや飲み過ぎで疲れた胃腸を休ませる食べものと思われがちだ。
たしかに健康面からみれば、あながち間違いではない。
だが、七草粥にはそれ以上の意味があるのもまた事実である。
現在、七草粥を食べている七日は『人日』という節句の一つだった。
古来、中国では文字どうり人を大切にする日とし、この風習が中国から日本へ渡来し、広まったようだ。
江戸時代初期には徳川幕府によって『式日』と定められ、公式行事となっている。
実は『人を大切にする』、ひいては『罪を許す』とした日はほかにもあり、現在よく知られているのは『中元の日』である。
7月15日に神仏にお供え物をする、あるいは迷惑をかけた相手へ贈答品を届けて、許しをこうたのである。
この行事が『お中元』として私たちの生活に根づいている。
ちなみに『下元の日』もあって、10月15日がその日にあたる。
現代の暦とは時期が少しずれているが、こちらは、お歳暮のルーツとみる向きもある。
さらに時代をさかのぼると、七草粥は天変地異な病気などの災厄から逃れようとした『おまじない』だったという説もある。
夏の猛暑も冷夏も、大雨も台風も、地震も津波も、自然災害の多くが神の怒りや祟りと考え、ただ恐れるしかなかった時代には、新しい年の初めに、神仏に七草粥を奉納することで一年間の無病息災を願ったのである。
地域によっては、七草粥をつくりながら『七草なずな、唐土の鳥が、日本の国に、渡らぬ先に、七草たたく、すとんとん、すとんとん』と唱える歌が伝わっている。
『唐土』は現在の中国だが、当時の世界観からすれば、『唐土の鳥』とは、アジア大陸も含めて見知らぬところからやってくる不吉なものや、空から降ってくる災厄を表したものだろう。
この歌は、鳥が渡って来ぬようにとの一種の呪文だったらしい。
ちなみに、現代の七草は『せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ』だが、時代や地域によって、さまざまな野菜が盛り込まれた『七草』があったようだ。